スピーカー開発販売のバタフライサウンド
エンクロージャの基礎
スピーカーシステムに大きな影響を与えるエンクロージャの理解
エンクロージャの目的
エンクロージャとはスピーカーの箱の事です。スピーカー(ユニット)はエンクロージャに納める事によって、劇的に音が変化します。裸の状態のエンクロージャでは高音ばかりが強調されてシャリシャリしていた音が、エンクロージャに収めることによって、低音が出るようになってぐっと豊かな音になります。音は1秒間に数十回から十万回以上の空気の音圧の変化によって起こる現象です。コーンが電気の力によって前後してこの圧力の変化を生み出すのですが、その時コーンの正面と背面では、逆の動きをする事になります。ドライバが裸の状態では正面と背面の音がちょうど反対の振幅を持つのでそれらは互いに打ち消し合ってしまい、貧弱な音になってしまうのです。そこでエンクロージャは正面に出る音と背面に出る音を遮断します。特にエンクロージャに様々な工夫をして正しい低音をどこまで再生できるかというのが、エンクロージャ設計の大きな目標のひとつです。
エンクロージャのタイプ
エンクロージャには大きく分けて2つのタイプがあります。1つは密閉型と呼ばれる完全にシールドされた最も基本的なタイプで、もう1つは位相反転型(バスレフ)に代表されるポートを持ち、ドライバの背面からの出力も積極的に利用しようというタイプのエンクロージャです。ドライバの正面だけからの出力を使用する密閉型エンクロージャでは、他のどのシステムと比較しても、低音の瞬間的なレスポンスや位相特性に最も優れます。これに対しポートを持つエンクロージャは、スピーカーの背面からの出力を低域再生に利用しようというもので、密閉型よりも低い周波数の再生が可能です。但し、正面から出る音よりも位相の遅れた音を使用する事になりますので、低域での諸性能が密閉型に劣ります。しかし、密閉型では困難な再生帯域まで再生可能となるので、現在の主流は位相反転型のエンクロージャとなっており、市販されているスピーカーのユニットも多くが位相反転型に適合するように設計されています。
その他のシステムでは、音響管型は音響管の共振を利用して低音再生を行うシステムで、音響管の長さは波長の1/4の長さで使用可能です。またバックロードホーンはその名の通りドライバ背面にホーン(ラッパ)を取り付けた形で共鳴を積極的に利用するシステムです。また、位相反転型の変形で低域だけを利用したケルトン型などは群遅延性が位相反転型より優れフラットな特性を下へ延ばす事のできるサブウーハーです。いずれにしてもスピーカーユニットによく合ったエンクロージャを選ぶ事がエンクロージャ製作の第一歩です。
どのエンクロージャタイプを選択したとしても、セオリーから外れない事が重要です。これはスピーカーシステム全体の設計にも当てはまります。例えばユニットの能力を越えて低音を無理に出そうと設計しても、群遅延特性※が悪くなったり、歪みが大きくなったり様々な弊害が必ず起こります。もちろんこれらの犠牲を充分に理解し、敢えてある特定の部分に優れた特性を持たせる事もあると思います。映画鑑賞用のスピーカーシステムなどでは極端にフラットな特性や群遅延を追求するよりも、とにかく低い音が出るという事の方が重要かもしれません。しかし低音が遅れている為にそれを「低音のパンチが効いている」と勘違いしてしまうのは良くない事です。クロスオーバーネットワークについても同じで、位相がめちゃめちゃな為に「中域が豊かに鳴る」とか、LPFがスピーカーのインピーダンスの上昇分を考慮しないがために高域が出過ぎているのに、「このユニットはハイ上がりなユニットだ」とかという、勘違いしてしまう事も良く有りますので注意が必要です。どんなに素晴らしい音響測定の環境があったとしても、セオリーの理解がないと間違った方法で問題を修正し、その為に起こってしまった他の弊害が起こっているかもしれません。
このサイトではスピーカーシステムをにいかにしてナチュラルな特性を持たせるかを中心に話を進めています。
エンクロージャに共通な重要事項
定在波と剛性
『定在波』とは平行に向かい合った壁で発生する音の強弱の事です。エンクロージャ内部で定在波が強く発生してしまうと、その周波数だけ音が響いてしまったり強調されてしまったりします。当然周波数特性もフラットにはなりません。
定在波を強く発生させてしまわない為には、最低限でも内部の寸法の比率が、縦、横、高さで同じ長さにならないようにしなければなりません。さらに、対向する壁が平行に向かい合わなければ定在波はかなり抑えることができます。
もう一点、どのエンクロージャにも当てはまる大切な事柄として『剛性』が上げられます。もしエンクロージャの剛性が低いと、ユニットのフレームの振動やエンクロージャ内部の空気振動を受けて、エンクロージャ自体も振動してしまいます。定在波の発生している周波数では顕著に振動を起こします。コーンと同じような振動をするだけなら、これも大した問題ではないのですが、固体(エンクロージャ)には固有共振があります。また、都合の悪いことに音波は空気中を伝わる時と、固体中を伝わる時とでは速度が異なります。よって、エンクロージャの振動はコーンとは異なった空気振動引き起こしてしまうので、スピーカーから出る音を濁らせます。原音に近い音を望む場合、これは大きなマイナスポイントです。また、同じ理由からエンクロージャの振動を床に伝えない事も重要です。床までもが振動するば、どんなに高級なスピーカーシステムでもクリアな再生音は望めません。同じユニット、同じエンクロージャ容量でも、エンクロージャの材質や補強材の入れ方が(つまりは剛性が)違うだけで、実際に出て来る音は全く異なります。エンクロージャの材質は比重の高いMDFが一般的です。吸音材
エンクロージャ内部には必ずと言っていいほど吸音材が使用されます。吸音材の使用目的はエンクロージャの不要共振を吸収する為です。ちょうど、自動車のサスペンションのショックアブソーバーのような働きをします。アブソーバーはバネとのバランスが重要です。エンクロージャの共振は定在波やユニットのフレームから伝わる振動などが原因で起こりますが、吸音材を使う事で効果的に望ましくない共振を抑えることが出来ます。但し使い過ぎるとコーンの動きを妨げる力がはたらきますので適量を使用します。但し、吸音材の増減で音が劇的に変わる場合はエンクロージャの剛性をまず確認した方が良いかも知れません。良く出来たエンクロージャ(剛性が高く定在波も少ないエンクロージャ)では、吸音材による音の変化はわずかです。吸音材に用いられる材質はグラスウールが最も有名で、最も効果が高いとされています。吸音材はそれ自体の密度や使用する厚みによって、吸音効果が変化し周波数によっても効果が異なります。
位相反転型の重要事項
現在最も多く採用されていると思われる位相反転型ですが、いくつか押さえておきたいポイントがあります。群遅延特性とポートのノイズです。群遅延につきましては別ページを設けましたのでこちらを参照して下さい。ポートノイズ
位相反転型はポートを必ず持ち、コーンの背面から出た音をこのポートから放出し低音を鳴らします。写真のようにバスレフポートの前にロウソクの炎を置くと、ポートの共振周波数で大きくロウソクの炎が風圧を受ける様子が目で確認できます。ポートの開口面積が小さすぎると風速が上がり、その風圧で風切り音を出してしまいます。これがポートノイズです。このポートノイズを抑える為には、適切な面積のポートが必要で、一般的にウーハーコーンの径に対して40%前後の径のポートが適切です。
※群遅延特性
スピーカーシステムに於いて群遅延特性は低音の時間的遅れを指します。英語ではGroup Delayと表現されています。群遅延性能は密閉型システムが最も優れていて、通常10msecを越えることありません。正しく設計された位相反転型システムでは10数msec程度ですが、ほんの少し無理な設計をするだけで簡単に30ms以上の群遅延は起こります。楽器演奏の経験があってエフェクターのデジタルディレイを触った事のある人は多分この数字に驚く事でしょう。ただ、実際のバスドラムやベースの音にはアタック音が含まれていてこれらは比較的高い周波数を含んでおり、デジタルディレイのように楽器の音すべてを遅らせるわけではないので、10数msecの群遅延でも割と区別がつかないのですが、数10msecの遅延は聴覚的にも問題になるでしょう。
群遅延特性について別ページを設けました。 こちらも御覧下さい。2004.3.8 加筆 (群遅延について)
群遅延による低域の遅れはスピーカーシステムによって必ず引き起こされている現象ですが、実際にどの程度のものか、具体的に記されている書物やページをあまり見かけません。そこで実際に低域の遅れは聴覚的にどの程度音の雰囲気を損なうのかシュミレーションしてみました。
実験方法
低域の遅れがない音声ファイルと低音だけ20ms遅れている2つの音声ファイルを用意してそれらをヘッドフォンで聞き比べてみます。ウォークマン用の小さなオープンエアーのヘッドフォンでは、また違った音になってしまいますので、出来ればある程度大きめのヘッドフォンで聴いてみて下さい。
音声ファイルの内容
用意した音声ファイルの内容は、バスドラムとハイハットを同時に4拍ビートを刻んだ時をイメージしています。
まず、50Hz(1周期は20ms)4波の正弦波を用意しこれを基本波とします。4波めだけ自然に減衰させます。これがバスドラムのイメージです。そしてもうひとつハイパスフィルタにかけたホワイトノイズを20ms用意して、アタックだけ残して急なスロープで減衰させます。これはハイハットのイメージです。
1の『低音遅延なし』の音声ファイルは、基本波の先頭にハイハットの音を合成します。
2の『低音20ms遅延』の音声ファイルは、基本波をハイハットから20ms後ろへシフトします。
ビートの基準はハイハットです。1. 低音遅延なし
2. 低音20ms遅延
イヤホン型ではない大きめのヘッドフォンで聴くと比較しやすいと思います。20cm以下のバスレフでは10ms以上群遅延が発生しているはずなので、比較は難しいと思います。聴き方のコツは、ハイハットに見立てたノイズのリズムに意識を集中して交互に比べてみると低音の遅れがよく判ります。最初全く同じに聞こえるかも知れませんが、慣れてくると違いがはっきりしてくると思います。私はこの2つの音源をブラインドテストして50回中、48回正解でした。
ぼーっとして聞くときには気になりませんが、集中して聴いてみると20msというのは音楽にとって非常に大きな遅れだと想像できます。単純な4拍だけでも音の差ははっきりしていますので、もっと複雑なリズムを刻んだ場合には大きくノリに影響する気はします。
今のところ個人的にはこの低音の遅れをかなり気にしています。
今回作った音源は音の立ち上がりに高次倍音を多く含んだひとつの音源であるとも取れます。これは推測ですが、高次倍音を多く含むアタック音の時には、低音の遅れは高次倍音にカムフラージュされてあまり目立たないのかも知れません。指で弾いたベースやソフトなビーターを使ったバスドラムでは、かなり高次倍音は減って正弦波が目立ってきます。アタックがソフトな音(立ち上がりがゆっくりという意味ではありません)は、立ち上がりに高い周波数をあまり含まなくなるので、高次倍音のカムフラージュ効果が薄れ、低音の遅延が楽曲のノリにより大きな影響を与えるかも知れません。
しかし、ビートの効いていない楽曲では問題にならない(認識できないレベル)でしょう。この話題はまたネタを用意して更新して行きたいと思っています。
群遅延特性について別ページを設けました。 こちらも御覧下さい。
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