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クロスオーバーネットワークとフィルムコンデンサ

フィルムコンデンサの種類と特徴

 様々なタイプのコンデンサの中で、フィルムコンデンサが音響特性に最も優れており、これらの誘電体にはポリエステル(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)等が使用されています。ポリカーボネートはそこそこ特性が良いのですが、生産は減少方向にあるようです。

 フィルムコンデンサはさらに箔電極型(film foil capacitor)と金属蒸着電極型(metalized film capacitor)に分類されます。箔電極型はアルミニウム箔や錫箔などの金属箔を誘電体フィルムではさんだ構造を持ち、金属蒸着電極型は誘電体フィルム面にアルミなどの金属を蒸着させた電極ももつフィルムコンデンサです。箔電極型を指してフィルムコンデンサと呼ぶ場合と金属蒸着電極型も含めてフィルムコンデンサと呼ぶ場合がありこの辺の境界ははっきりとしていません。金属蒸着型はメタライズドフィルムコンデンサとも呼ばれます。このページでは金属蒸着型をメタライズドフィルムコンデンサと呼ぶ事にします。静電容量はフィルムコンデンサは100pFから0.01μFの範囲、メタライズドフィルムコンデンサは1000pFから10μF程度のものが一般的です。

 しばしばメタライズドという言葉が省略されますが、(パッシブ)クロスオーバーネットワークにはこのメタライズドフィルムコンデンサが使用され、誘電体はほとんどの場合でポリエステルかポリプロピレンが使用されます。音響特性を最も重視する場合にはポリプロピレンのメタライズドフィルムコンデンサというのが半ば常識となっています。

 また、これらコンデンサには自己回復作用があり、定格内で正しく使用される限り寿命がないとされていますが、カタログによっては300,000時間などと表示されているものもあります。300,000時間とは毎日6時間使用して約137年です。但し定格内で正しく使用するためには、コンデンサごとの仕様をしっかりと理解していなければなりません。

コンデンサの仕様

 コンデンサの仕様を表現する主なパラメータには次のようなものがあります。
静電容量単位:ファラド[F]
精度静電容量の精度:±のパーセントまたは静電容量で表されます。
耐圧直流電圧の耐圧をVDCで表します。交流の耐圧がVACで併記されている場合もありますが、周波数によって実際の耐圧は変わるので注意が必要です。
誘電正接抵抗成分とリアクタンスの比をTanδ[%]で表します。数値が小さい方が優れたコンデンサです。

←理想的なリアクタンス(Xc)からδ分の電流位相が遅れ、この分は熱に変わって損失となります。

絶縁抵抗絶縁抵抗を[MΩ]またはMΩ・μFで表します。数値が大きい方が優れたコンデンサです。クロスオーバーネットワークでの使用では絶縁抵抗はあまり問題になるレベルではありませんが、真空管アンプなど高電圧の箇所に使う時には注意が必要です。
温度範囲使用可能な環境温度で-40℃〜+100℃などと表されます。
ESRコンデンサの等価回路直流成分を[Ω]で表します。現在はtanδの方がよく使用されます。
ESLコンデンサの等価直列インダクタンスです。数百pH〜数nH程度。※高周波回路ではこのインダクタンスが問題になります。
※高周波とはMHz以上の周波数を指します。100kHzに満たないオーディオ帯域は全て低周波です。

メタライズドフィルムコンデンサの特性具体例

 この表からは誘電正接(tanδ)と温度範囲が若干違うだけで、両者はほぼ同じ特性を持つように見えます。しかしこれは、ある定められた条件の中で採られたデータなのでこれら数値だけで、コンデンサの性能を判断することはできません。

周波数特性

 次のグラフは周波数による静電容量の変化と、誘電正接の変化を示した例です。PPがポリプロピレンでPETがポリエステルです。
周波数による特性の変化は音響特性に直接影響しますから、このグラフからもポリプロピレンのほうが遥かにオーディオに適している事がわかります。

温度特性

 次は温度に対する静電容量と誘電正接の変化を表したグラフです。
温度の変化に伴って20℃近くを中心に静電容量が変化します。定格に対して充分な余裕をもって設計された回路では、温度の上昇も少ないので結果的に少ないドリフト範囲でコンデンサを使用できます。温度変化に伴って誘電正接はポリプロピレンでは定格内で使う限り殆ど変化しませんが、ポリエステルは大きく変化します。

耐圧

 次のグラフはポリプロピレンとポリエステルフィルムコンデンサの許容AC電圧を示したものです。

ポリプロピレン、ポリエステル共に1μF/630VDCのコンデンサでの比較です。低い周波数では共に200VACを上回った耐圧を持っていますが、高い周波数では随分とポリエステルの耐圧は低下しているのが判ります。この例では可聴範囲の上限とされている20kHzで、ポリプロピレンの耐圧が50VACを超えているのに対して、ポリエステルでは約10VACまで耐圧が低下しています。10VACとは8Ω負荷で10Wを少し超える程度の電圧で、50VACは8Ω負荷で約300Wの電圧です。耐圧を超えて使用すると、諸特性は悪くなり、特性が悪くなると、さらに耐圧も低下するという悪循環で、フィルムコンデンサといえども劣化が進んでしまいます。このグラフの斜線は静電容量が大きくなる程、左へ(低い周波数方向へ)シフトし、許容電圧はさらに下がります。この耐圧のグラフはあくまで正弦波での許容電圧を示すもので、それ以外の波形信号ではかならず高調波が含まれる事も念頭においておかねばなりません。50kHz程度まで再生可能な最近のデジタルアンプとソースを使って、クロスオーバーネットワークの耐圧が630VDCよりも低いポリエステルフィルムもコンデンサを使った場合には、コンデンサの耐圧を超えてしまう場面があるかも知れません。50kHzでノイズや発振が起こり、かなりの出力でスーパーツイータをドライブしていたとしても、多分耳では気が付かないのでちょっと恐ろしい気もします。

インダクタンス成分


 コンデンサの理想的ではない特性には、抵抗成分の他にインダクタンス成分があります。インダクタンスはコンデンサのキャパシタンスと電気的に共振しますので、ある周波数でグラフの様なインピーダンス曲線を持ちます。このグラフは6.8μFのコンデンサのデータで端子ワイヤが2mmの時のデータです。ワイヤ長が明示されているのはワイヤ長がながくなると、インダクタンスも高くなるからです。グラフ中の破線はコンデンサの理想特性です。このようにインダクタンスの影響でインピーダンスは共振点をもってしまいますが、この共振点はMHzオーダーですので、コンデンサのインダクタンス成分は高周波回路では問題になるものの、低周波(オーディオ帯域)では問題にはなりません。この共振点も耐圧同様に容量が大きくなる程、低い周波数方向へ移動します。

まとめ

 電気的特性から判断する限り、パッシブクロスオーバーネットワークに最も適しているのは、誘電体にポリプロピレンを使ったメタライズドフィルムコンデンサといって良いでしょう。敢えてポリプロピレンがポリエステルに劣る点を上げると、温度範囲がポリエステルより若干狭い事、誘電率がポリエステルより低いので物理的サイズが大きくなる事、クロスオーバーネットワークに使用できる大型のものについては静電容量の種類がポリエステルほど多くない事、価格がポリエステルより高い事などが上げられます。一方ポリエステルのメタライズドフィルムコンデンサは、耐圧、容量、形状などの種類が豊富でポリプロピレンよりも安価なので適用範囲も広く、周波数帯域の限定されたインピーダンスの補正回路やミドルクラスまでのクロスオーバーネットワークでは充分な特性を得られるはずです。

 コンデンサは音に大きな影響を与える素子です。特に最も基本的な6dB/octのクロスオーバーネットワークのHPFでは、そのままアンプとスピーカーの間にひとつのコンデンサが直列に接続されるだけですから、コンデンサの影響がストレートにツイーターに伝わります。6dB/octのクロスオーバーネットワークで色々なブランドのコンデンサに差し替えて、ダイレクトにコンデンサによる音の変化を楽しむのもオーディオの楽しみの一つかも知れません。高価なスピーカーケーブルをいろいろ試すよりもずっとリーズナブルに音をグレードアップ(ダウンも)できますし、理屈にかなっています。聴覚比較する際に注意する点は、クロスオーバー周波数を一定に保つために、接触抵抗がバラ付かないようにする事(ハンダ付けが最も有利です)、コンデンサの容量(誤差)をできるだけ揃えて比較する事(できればLCRメータで測定)、またエージングによってキャパシタンスドリフトがあることも考慮しておく事などです。キャパシタンスドリフトが一番少ないのはポリプロピレンで、ここでもポリプロピレンに軍配が上がります。

 また、この記事を書くのにあたって、いろいろなメーカーのコンデンサのデータシートに目を通しましたが、フレコミから判断して当然ポリプロピレンだろうと思っていたコンデンサがポリエステルであったり、価格の割にTanδが以外と大きかったり、ちょっと首を傾げてしまうような高価なコンデンサもいくつかある事がわかりました。しかしこのようなコンデンサでも非常に音が良いと言われる人も多いので、或はここで取り上げた特性の他にまだ重要な要因があるのかも知れません。
 結論としては最後は自分の耳でという事になるのですがその手前までの理論をどのレベルで把握しているのかがとても重要だと思います。




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